「……今何て言ったよ?」 『時間が無いのです。あなた達には異世界へと旅立ってもらいます』 もとの輝きを取り戻した風のクリスタルはそう言って静かにきらめいた。 「……だそうだが、ブリーズ?」 いかつい鎧に身を固めた青年は、その深い茶色の髪を乱暴に掻いた。 「マジで? 何で俺ら?」 『あなた達が選ばれた魂を持つ者だからです』 「そんなもん、フェウやテーレでもいいじゃねえか」 頬を走る二本の爪あとをなぞりなお食い下がる。そんな相棒をやや呆れた目でもう一人が見つめる。 『火と土の属性については波動を感じます。しかし風と水はありません。同じ属性を持つ者を送っても無意味です。彼らはあちら側の光を持つ者たち。しかし、ブリーズ、コウルス、あなた達は両方の光を持ち合わせているのです』 「……用は、さっさと行けってことだろ?」 「ブリーズ!」 もう一人……コウルスが嗜める。深い深緑の輝きには少しいらだちが混じっていた。こっちは余計なことで時間を延ばさず、さっさと出発したいらしい。 「あー……まあいいや。何事も実行しなくちゃ始まらねえもんな。よし! 行ってやるぜ」 『どうか、あちら側を頼みますよ。選ばれし光の戦士たちよ』 一瞬強く風が吹きぬけ、次の瞬間には青年達の姿が掻き消えた。 * クリスタルのある洞窟のどこからか赤子の泣き声がする、と旅人が駆け込んできたのはつい先刻のことだ。長老トパパもこれには驚き、年老いた体に鞭打って祭壇へと向かった。 祭壇へ続く扉を開き、一同は立ちすくんだ。そこで幼いながら懸命に赤子をあやす少年と赤子がいたのである。少年と言っても五、六歳ほどの幼子だった。不思議な、神秘的な美しさを持った子供だ。 少年は顔を上げて一行を見た。それから声を発する。 「あ」 トパパはゆっくりと近寄り、少年に問うた。 「お前さんは……いやいや……どうやってここに入ったのかね?」 「ぼくたちはおくられてきたんです」 少年の澄んだ甲高い声が祭壇に響く。利発そうな男の子であった。淡い緑色の髪はクリスタルに照らされて蒼い光を帯びている。 「かぜのクリスタルの、いしです。このこもぼくも、そうやってきました」 泣き喚く赤子を小さな手で抱きなおし、真っ直ぐに年老いた僧侶を見据える。 赤子には傷があった。左眉の上に十字の傷が、そして左頬には爪あととも見られる二本の傷が。しかし血は出ていない。ふいと赤子が目を開いた。その色は銅のごとくであった。不思議な雰囲気は少年と変わらない。 「一体……君達は……」 「……」 問いには答えが無い。見れば少年は赤子を抱えたまま眠っていた。小さな体をそっと抱き上げる。ともすれば落ちそうな赤子は、旅人に持ってもらう。 「ともかく……連れて行こうかの」 いたく神妙な顔つきでトパパはつぶやいた。 |
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